このお話は大手医薬品メーカーの研究開発チームを率いる鈴木課長のお話です。
鈴木課長は外部企業でキャリアを積んだ転職組として期待のマネージャーでした。しかし蓋を開けてみると根っからの研究者肌の鈴木課長は人との関わり合いに大きなコンプレックスもあり、なかなか上手くマネジメントとしての役割を担うことが出来ないというお悩みを抱えておられました。
更に、ご自身は会社から与えられたマネージャー職よりも3度の飯より研究が好きという方で、マネジメント職への喜びや楽しみを見出すことが出来ないまま、チームを率いておられるという非常に辛い日常を送っておられます。
そんな鈴木課長と私の出会いは、私がこの会社でコーチングコミュニケーションの年間シリーズ研修で登壇させていただいる、セミナーの初日でした。
私は2週に一度そちらの会社にお邪魔し、1回3時間程度のコーチングを生かしたチームビルドの講義を年間24回というスケジュールで行っております。
鈴木課長は初回の講義の後、全員が帰られ誰もいなくなったセミナールームにこっそりお戻りになり、ご自身のお悩みをお話いただいたのが初めての出会いです。
その日はマネジメント職への不満やチームメンバーとの軋轢に悩んでいらっしゃるという苦しい胸の内をもろもろお話されておられましたが、最後には、ぜひメンバーの話をしっかりと聴いてみたいと元気に帰って行かれました。
それ以来、セミナー後のお時間に全員がいなくなった頃にセミナールームにお戻りになり、小一時間お話することが暗黙の了解となりつつあります。今日はBクラスのセミナーの日です。
今日のBクラスには鈴木課長の研究開発チームの渡辺さんという20代女性がご参加になられていました。
いつも自信なさげな彼女でしたが、自分に自信をつけて前に進みたいという意欲が湧いてくださったようで、私もとっても充実した講義となりました。本当に良かったぁ。
詳しくは研究肌リーダー鈴木課長のチームビルド成功への道のり No.6のブログをお読みくださいませ。
研究肌リーダー鈴木課長のチームビルド成功への道のり No.6
さて、Bクラスには鈴木課長のチームメンバーの中でも取り分け付き合いの長い佐藤さんが所属しています。
佐藤さんは、Bクラスの終わった後や、その他私を見つけると、たまぁにいらして、あぁでもないこうでもないとチームの状態を雑談していかれることが多いです。
私の立場からすると毎回いらっしゃって、相談しながらチームビルドに取り組んでおられる鈴木課長を陰ながら応援しつつ、客観的な別視点をもった佐藤さんの登場により多角的視点を手に入れる事ができ、一つのチームが成長していく様子がとてもよく分かるような気が致します。
というのも、私はコーチングという仕事を通じ多くのチームが一つになる姿を見てまいりました。そのたびに、コーチングってやはりすごいなぁと思いながら、感心しています。しかし一人の方を中心にお話をいただく場合、他の方の意見を聞かれるチャンスというのはそうはありません。そういった意味で、佐藤さんの存在は私にとって貴重な存在となりつつあります。
粗方質問の対応が終わったは18時を少し回ったころでした。本当にこちらの企業の皆さんは勉強熱心でいらっしゃり、皆さん講義の後にホワイトボードの前に集まっては、今日の講義のこと自分の上司のことやメンバーのことなどご質問されていかれます。
佐藤さん・・・今日も来てくれるかなぁと思いながらも、だいぶ人が減ったBクラスの後片付けをしておりました。
静かなセミナールーム・・。窓を開けると蒸し熱い空気がもわっと入ってきました。少し冷房で冷えたためしばらく換気を兼ねて窓を開け、パソコンの接続コードを外しながら、きれいに片づけておりました。
夏の手前の夕暮れ時、静かなセミナールームに軽快な足音がだんだんと近づいてきました。
「寺田さん。今日の講義とっても面白かったです。ありがとうございます。」
佐藤さんは、ちょっぴりヨレヨレの白衣の中に巨人のロゴ入りTシャツを着て戻ってまいりました。
「あっちくないですか?この部屋」
そういうと白衣の胸元をバタバタと開け閉めしながら自分の持っていたジャイアンツの内輪で仰いで見せました。
私は、思わずクスっと笑いながら
「⑩こんばんは(^-^) 佐藤さん 巨人好きなんですね。今 冷房いれますね」
そういうと、窓を閉め再び冷房を入れました。
今日は、会話の中で重要な点を色付け表示しております。
次回はコーチがお伝えしたい会話術を解説をしていきますので、ぜひ少し意識してご覧くださいませ。
すると佐藤さんは、こう切り出しました。
「前回、寺田さんとお約束させ頂いていた鈴木課長とのランチ 有言実行してきましたよ!!」
彼は意気揚々と水兵さんのように右手の平の4本の指をピシッとそろえて、肘を40度に曲げてこめかみに充てがい、少しおどけた様子を見せました。
「①有言実行素晴らしいです! ②鈴木課長も佐藤さんがランチに誘ってくださったと喜んでおられましたよ」
私がそいういうと、佐藤さんは
「えぇ、本当ですかぁ?なんだかうれしいなぁ」
と照れ笑いをしながらニコッと笑います。その顔は前回 私に鈴木課長の愚痴をさんざん話しておられた佐藤さんの姿とは別人のようでした。
「③佐藤さん、今日はなんだか、明るい顔をされておられますね。」
すると佐藤さんは少しうれしそうにこう答えました
「④実は・・・・ ⑤鈴木課長が、他のメンバーとは付き合いも短いし、なかなか本音で話せなくってさ・・・。なんて しおらしい こと言うんですよ。
⑥それで、さらには初めてのマネジメントに戸惑って空回りして、メンバーの信頼もなかなか構築できなくて、なんだか情けないよなって、そんなこと言うんです。」
佐藤さんは、少しだけ優しい目をしながら話されました。
⑦私は「えぇ」とだけ小さくうなずき相槌を打ちました。
「僕は、鈴木課長が自分の悩んでいることを話してくれたのがむしろなんだか嬉しくて・・・おかしいですかね」
私は話をゆっくり聴きながら、両手を小さく振り
「いえいえ全然おかしくないですよ。佐藤さんは信頼されておられるのでしょうね」
きっと佐藤さんもそう感じておられて、それが嬉しかったのではないでしょうか?
すると佐藤さんは小さくうなずき、柔らかい表情を浮かべて
「ありがとうございます。それで、前回話してた鈴木課長の空回り(笑)も含めて、改めて僕がフォロー役に回れたらなぁなんて少しだけ前向きになりました。寺田さんのいお陰です」
そいういうと、あんなに言っちゃったことで小さな後悔があったのか、私に向かって少しだけ肩をすくめたような表情を見せてペコっと頭を下げました。
その姿がなんだか可愛らしい雰囲気すらかもしておられ、私は、更に心が軽くなるようにとおまじないのために一言付け加えました
「ぜーんぜん。大丈夫ですよ。⑧誰だって・・・。私ももちろん愚痴の一つや二つや三つや四つ・・・あれ多すぎますか?(笑)まぁ、ありますから」
そういうと佐藤さんは少し心が晴れたような顔をされ、今日一番の笑顔でこう続けられました。
「ありがとうございます!!頼りにしてもらえているって感じると仕事にちょっとだけやりがい感じます」
と仰って満足気に後片付けを始めました。
そして、セミナールームを後にされるその背中はとてもスッキリされており、鈴木課長のチームがこれからどんどんと強くなっていくことを確信したように感じます。
その時でした。
「忘れてた!」と佐藤さんが振り返りました。
「どうされました?」
「あっすいません。実は、今日の講義で発言していた渡辺についてなんですが・・・」
私は、再び短い相槌を打ちました。
「彼女、すごく仕事を緻密にやってくれるし助かることばかりなのですが、どうも自分自身に自信が持てないのか・・・消極的なんです。何か仕事をお願いすると、いえいえ無理ですとか・・・。私なんかッて言うんですよ。
いいもの持ってるんだけどなぁ・・・今度またその話もしますね」
私は、チームビルドの影の立役者の一人(佐藤さん)に一つだけ宿題を創りました。
「そうでしたか・・・。渡辺さん 本当に真面目に取り組まれてて素敵な方ですよね。⑨私からひとつお願いなのですが、彼女が仕事を期限内にしっかりと出してくださった時に、感謝の気持ちに加えて渡辺さんのおかげで仕事がスムーズに進む旨も一緒に伝えて差し上げてくれますか?」
そうおつたえすると、少しいぶかし気な顔をしながら佐藤さんは
「あっはい?分かりました」
と返事をしてくださいました。
そこで私は背中を押すように
「じゃぁ、今日のお約束はこれですよ。また、お話にいらしてください」
そう伝えると再び水兵さんのように啓礼をし、
「わっかりました!じゃぁ寺田さんも気を付けて帰ってくださいね」
そう一言いい残すと足も軽やかに去って行かれました。
時刻は18時46分7月の夕暮れ時です。今日のお話はここまでに致しましょう
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