このお話は大手医薬品メーカーの研究開発チームを率いる鈴木課長のお話です。
鈴木課長は外部企業でキャリアを積んだ転職組として期待のマネージャーでした。しかし蓋を開けてみると根っからの研究者肌の鈴木課長は人との関わり合いに大きなコンプレックスもあり、なかなか上手くマネジメントとしての役割を担うことが出来ないというお悩みを抱えておられました。
更に、ご自身は会社から与えられたマネージャー職よりも3度の飯より研究が好きという方で、マネジメント職への喜びや楽しみを見出すことが出来ないまま、チームを率いておられるという非常に辛い日常を送っておられました。
そんな鈴木課長と私の出会いは、私が鈴木課長の会社でコーチングコミュニケーションの年間シリーズ研修で登壇させていただいた、セミナーの初日でした。
私は2週に一度そちらの会社にお邪魔し、1回3時間程度のコーチングを生かしたチームビルドの講義を年間24回というスケジュールで行っておりました。
鈴木課長は初回の講義の後、全員が帰られ誰もいなくなったセミナールームにこっそりお戻りになり、ご自身のお悩みをお話いただいたのが初めての出会いです。
その時はマネジメント職への不満やチームメンバーとの軋轢に悩んでいらっしゃるということを、いろいろお話され最後には、ぜひメンバーの話をしっかりと聴いてみたいと元気に帰って行かれました。
それ以来、セミナー後のお時間に全員がいなくなった頃にお戻りになり、小一時間お話することが暗黙の了解となりつつあります。今日はBクラスのセミナーの日で鈴木課長の出席する日程ではありません。しかし、前回の授業の時に【尊敬】というテーマで話し合い、Bクラスの前の1時間、この【尊敬】ということについてもう少し深く考察しましょうと言うことになり、今日はそのお約束の日です。私は、ご自身でどのような結論をお考えになったのか?とても興味があり、鈴木課長がいらっしゃることを心なしか待ちわびておりました。
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詳しくは7月6日 ブログをお読みくださいませ
研究肌リーダー鈴木課長のチームビルド成功への道のり No.4
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私は、前回 まず鈴木課長が部下の方々を尊敬することがチームビルドはたまた人間関係全般においてのスタートではないでしょうか?というお話を致しました。
その際 お話したのはナチスの迫害を受けてアメリカに渡った社会心理学者のエーリッヒ・フロムという方の【尊敬】の定義です
【尊敬とは人間の姿をありのままに見て、その人が唯一無二の存在であることを知る能力であり、尊敬とはその人がその人らしく成長発展していけるよう、気遣うことである】
部下の方を尊敬するという概念を持ち合わせていなかった鈴木課長にとって、突然の話でハトが豆鉄砲を食らったというような顔をされておられましたが、最後は意を決したように両手で膝をパンと叩き、真っすぐと目を見て「分かりました!やってみます!」と力強くお話しされました。
その時点で19時を回っておりましたので、私はやってみてくださいとだけお伝えしましたが、実はこれまた難儀であることは明白でありながらも一度ご自身で頭を整理する期間が必要であろうと思いましたのでそのまま見送りました。
あれから2週間、鈴木課長は具体的にどのような行動を起こしたのでしょうか?その答えをもって、もうすぐ鈴木課長が訪れる時間です。
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「寺田さんこんにちは・・・」
少しばかり浮かない表情でセミナールームにいらした鈴木課長に、私も声のトーンを合わせるようにゆっくりと
「こんにちは」
とお伝えしました。少しの沈黙の後、鈴木課長は
「やってみましたよ?尊敬?」
と少しばつの悪そうな、おどけるような表情でボソッとお話されました。
「そうですか?いかがでしたか?」
と、次は出来るだけニュートラルな声のトーンと表情で次を促しました。
すると
「やっては見たけど、正直何をやったら良いのかが分からなかったです。だって今までは尊敬ってすごい人にすることだったと思うんです。でも先日の寺田さんのお話、えーっと・・・ドイツのえーっと・・・あっ!フロムさんのお話では誰でも、唯一無二の存在として尊敬するというようなお話でしたよね。それってすごく難しかったです。でもすごく良いお話だなぁとも思ったんで、やってみようとは思ったのですが・・・
結論、実際どうしたら良いか分からなかったんです。
凄いねぇとか声かけると気味悪がられるし・・・。お菓子とか買ってってもあれだしねぇ・・・。」
悩ましげな表情を浮かべながら、ご自身の行動の奥行の無さをすでに感じておられる表情です。そこで
「そうですか。確かに感の鋭い人ほど敏感に嘘やおべっかに反応しますよね」
私は相槌を打ちながら自分のことを思い出しておりました。
というのも恥ずかしながらも私にも同じような経験がありました。コーチングの勉強をして頭と理論では分かっていたことも実は具体的に実践出来ていなかった自分は鈴木課長と同じようにお客様との信頼関係に悩み、まさに同じことを当時のコーチに言われてやってみたけど上手くいかない・・・。そんな日を少し懐かしくも鮮明に覚えております。
そして私は反芻するようにこう伝えました。
「これは命題ですよね(*^-^*)」
あっけらかんと話す私の顔をいぶかし気に眺め
「なーんだ、今日は答えを教えてくれるわけではないんですね?」
と鈴木課長。それを受け、私はこう続けました
「答えは十人十色です。でもこの時間は尊敬を行動に落とし込むための時間にしませんか?」
すると鈴木課長の顔が少し晴れて、元気よく
「はい了解です」
とお返事されました。
私は、
「さて、まずはエーリッヒ・フロムさんの言葉を改めて読み返してみましょう」と言い
尊敬とは? ①人間の姿をありのままに見て、その人が唯一無二の存在であることを知る能力である ②その人がその人らしく成長発展していけるよう、気遣うことである |
こうホワイトボードに大きくマーカーで書き込みました。すると鈴木課長はすでに何かに気が付いたように
「文字に書いたり、文章を分けて考える気が付くことって多いんですねぇ。
①は、ありのままに見てということは、やはり観察が必要そうですね。」
「そうですね。ところで鈴木課長はチームメンバーの方々の誕生日や家族構成や趣味、大切に思うことなどをどのぐらいご存知ですか?」
「そうですねぇ・・・。」少し考えてから 「正直あまり知らないす」
そういうと、鈴木課長は続けました。
「ありのままに見るってそういうことですか???でも言われてみるとありのままに見るにも何も知らないんじゃぁ、ただ眺めてるだけですもんねぇ」
そして突然何かを決意したように
「分かりました!メンバーの誕生日や家族構成 趣味など見てみます!」
そこで私はすかさず
「良いですね!素晴らしいと思います!ところでどうやって?」
と付け加えました。見てみますやってみますというお客様はよくいらっしゃいます。しかし、今回は具体的行動に落とし込むことが大切です。
「あぁ・・・考えてなかったです。えーっと・・・。えーっと・・・。何か良い方法知ってますか?というか、寺田さんは知ってますね(笑)」
もちろんです。日々それを研究してます(笑)と思いながらも冷静に
「それでは、私の知っている情報を少しシェアしても良いですか?」
と了解を得たところ。真新しい黒いリングノートの背から、木の素材で出来たのシャープペンシルを取り出し、得意げにカチカチをノックを3回ほどされてから、ゆっくりと「お願いします!」と眉毛を上下に動かしました。
私は、そこで
「すいません。話は違うのですが素敵なノートですね。大人の上質な雰囲気がします」
と伝えました。すると鈴木課長は待ってましたとばかりに
「これねぇ。買ったんですよ。寺田さんとこうやってお話したり、毎月の研修の中から忘れちゃいけないことを書きとめようと思いまして。
ちょっと奮発してマルマンのニーモシネです。やはり書きごこちがとっても良いんです。」
「そうでしたか。ニーモシネ私も使ってました。すごく良いですよね。黒い表紙に金色のロゴが高級感ありますし、大切なコトを書き留めておくのにシャープペンシルの滑りが良くて、なんだか嬉しくなっちゃうって言うのか。」
「分かります?こういう文房具ってなんだか気持ちが上がりますよねぇ。」
ノートの話題で盛り上がり、更に
「そのシャープペンシルも素敵ですね。なんだか握った感じの木のぬくもりとか柔らかさが伝わってきます」
そう伝えると、待ってました!とばかりに
「このシャーペンはねぇ・・・。」
鈴木課長はとっても得意気に話を区切り、そして非常に嬉しそうな表情を浮かべこう続けました
「なんと!!この間の家族旅行の時に娘たちがサプライズプレゼントしてくれたんです。
山梨のワイン蔵に寄ったんですけどね。お姉ちゃんと下の子に1000円づつ 好きなもの買っていいよってミュージアムの売店で自由時間をとったんです。その時に二人で相談してその2000円とママに少し出してもらって、これをパパにって買ってくれたんですよぉ。自分たちの欲しいものを我慢してですよぉ。もう涙が出るかと思いました。いやちょっと出てたかもしれません(笑)
ワインの樽から出来てるらしいんです。もう、もらった瞬間嬉しくて、天使ですね。うちの子たちは!」
「そうでしたかぁ。それは嬉しいですねぇ。しかもおいくつのお嬢様か分かりませんが、センスがきらりと光りますね!」
「えぇ。うちの天使ちゃん達は上が12歳で下が9歳なんですけどね。下は天真爛漫でまだ泥んこ遊びとかするんですけど、上のおねぇちゃんはテレビに出たいって言うんで、ちょっとおませなお洒落さんなんですよ。同じ姉妹なのに全然違うんですよね。面白いもんですよ。
あぁっ本当に親バカで申し訳ありません。ちなみにですが、多分 学年で一番可愛いんじゃないかなぁなんて思ってます。」
最後まで言い切り満足気な顔をされておられる鈴木課長も普段は厳しい顔なのに娘さんのお話をされるとこんなデレデレの顔になるんだと思いながら、興味深くお話をお伺いしていました。
すると突然 加藤課長が前かがみになり話し始めました。
「寺田さん!!なんでそんなに相手の話を引き出せるんですか?」
と突然真面目な面持ちで問いかけてきたので、私も少しびっくりしましたが、自分の思考の癖を整理してからお伝えしました。
「恐らくそれは、相手に対する興味ではないかと思います。私は人間の思考や行動を考え、お伝えすることをお仕事にしていますから、人一倍 人間に興味があるんです。だからこそ相手のお話をもっと聴きたいという気持ちになるのだと思います」
すると「なるほどぉ・・・」と腹落ちしたような満腹の時に出るため息のような ”なるほどぉ” を言葉にしながら、加藤課長は買ったばかりのニーモシネのノートに
2020.07.07 14:32 | 相手に興味を持つことからスタート |
とメモを取られておりました。そして、突然思い出したかのように
「あぁ、そう言えば 先ほど寺田さんが話しかけていた、話は何ですか?何か教えてくれるって言うあれです」
と仰るので、私は
「ご自身で気が付かれたようですね。私がお話することもないかもしれません。
一つだけリクエストするとしたら、そちらのノートでも構いません。毎日 メンバーの皆さんのことで気が付かれたことはメモを取っておいてください。そしてたまに眺め、メンバー事に回数に偏りがないか?(○○さんには話しかけたけど○○さんには話しかけていないなど)をチェックし、均等にチームメンバーの方と話す時間を、1日今より20分増やす努力をしてみてくださいませんか?」
「20分ですか。それは意識しないと無理そうですね」
すると再び
ノートの2行目に
2020.07.07 14:32 | ②今日から毎日20分いつもより多く、メンバーに興味を持って会話をする。※ノートにメモをとること |
そう書き留めておられました。 【尊敬】この言葉の意味はまだまだ深い!つまり命題ですね。またこのお話をする機会が来そうですが、
今日は、一つの行動指針が決まり、次回の報告が楽しみです
人は行動を起こした時に変わり始めます。そのことを忘れてはいけないと思いました。
私には既に鈴木課長のチームが会社を引っ張る素敵なチームになっていくことが手に取るように見えてきているのですが、本人たちはそれをまだ知る由もないようです、
次回、鈴木課長がいらっしゃるのは再び2週間後です。お楽しみに
そして、今日もBクラスが間もなく始まります
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